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神戸地方裁判所 昭和27年(行)18号 判決 1960年6月06日

原告 中島金次郎

被告 兵庫税務署長

訴訟代理人 木村傑 外七名

主文

被告が昭和二六年六月三〇日原告に対してなした昭和二五年度分の所得金額を金四二六、一九五円とする更正決定のうち所得金額三八八、一〇一円を超える部分はこれを取消す。

原告その余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを四分し、その三を原告の、その余を被告の各負担とする。

事実

第一、申立

原告は、「被告が昭和二六年六月三〇日原告に対してなした昭和二五年度分の所得金額を四二六、一九五円とする更正決定のうち所得金額二九〇、四五七円を超える部分はこれを取消す。」との判決を、

被告は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決をそれぞれ求めた。

第二、主張

(一)  原告

(請求原因)

一、原告は、神戸市兵庫区下沢通一丁目三番地において雑貨品の販売業を営んでいたものであるが、被告に対し昭和二五年度分の所得金額を金二九〇、四五七円として確定申告したところ、被告は昭和二六年六月三〇日付で原告の所得金額を金四二六、一九五円とする更正決定をなした。そこで原告は、同年七月一八日被告に対し再調査の請求をしたが、同年九月二二日付で請求を棄却する決定があつたので、同年九月二八日さらに大阪国税局長に審査の請求をしたところ、同国税局長は翌二七年八月一一日原更正ならびに再調査の決定は正当であるとして右審査請求を棄却する旨の審査決定をした。

二、しかしながら、原告の昭和二五年度の所得金額は金二九〇、四五七円であり、したがつて被告のなした右更正決定のうち所得金額二九〇、四五七円を超える部分は違法であるからその部分の取消を求めるため本訴に及んだ。

(被告の主張に対する陳述)

一、総収入金額について、

原告の昭和二五年度の総収入金額に関する被告の主張はすべて否認する。すなわち、同年度中の原告の売上は現金売分売掛分を、併せて合計金二、七七〇、二二二円であつて、被告主張のような売上の計上漏れは全く存しない。

二、必要経費について、

原告の右年度中の必要経費のうち、(イ)仕入品の原価が二、二九〇、七七九円(商品仕入高二、〇四六、一五二円に期首商品棚却高九九四、六二七円を加えたものより期末商品棚却高七五〇、〇〇〇円を控除した額)、(ニ)運賃が四一、五〇〇円、(ホ)光熱費が六、五七九円、(ヘ)修繕費が四、七三〇円、(ト)広告費が三、二〇〇円、(チ)事務用品費が一、六三六円、(リ)公租公課が五五、八六五円、(ヌ)荷造包装費が三、二八七円、(ル)通信交通費が三、一八〇円であることはいずれも認める。

しかしながら、(ロ)使用人の給料(ハ)厚生費(ヲ)地代(ワ)雑費(カ)支払利息の各点については次のとおり主張する。

(1) 使用人の給料

原告は、被告主張の金七、〇〇〇円の使用人の給料の外に、昭和二五年中に角谷、小野及び沢の三名の使用人に対し合計金一四、八〇〇円の給料を支払つたが、右三名はいずれも家事手伝人ではなく専ら原告の営業のために使用していたものであるから、右給料は必要経費たる使用人の給料と認むべきものである。

(2) 厚生費

被告主張の金三、九一二円の外、昭和二五年一〇月三〇日原告の妻光子の医療費として金七、三二〇円を支出したが、右光子は原告の営業に専従していたものであるから、右医療費は単なる家事上の経費をもつて論ずべきものではなく、必要経費として計上すべきものである。

(3) 地代

原告は、前記下沢通一丁目三番地所在の原告所有家屋の敷地の地代として昭和二五年中に金六、三一〇円を支払つたが、右家屋は店舖及び倉庫より成つていずれも専ら営業のために使用していたものであり、原告方家族の居住の用に供していたのは右倉庫に附属する四畳半の間一間にすぎないから、右地代はその全額が総収入金額を得るために必要なものというべきである。

(4) 雑費

被告主張の金一五、〇五〇円の外、原告は電話加入申込費として金一〇、〇〇〇円、護国神社に対する寄付金として金五〇〇円合計金一〇、五〇〇円を支出したが、右はいずれも原告が店舖を構えてその営業を維持継続するについて必要欠くべからざる経費であるから、必要経費として計上するのが正当である。

(5) 支払利息

被告主張の金五、九五〇円の外、昭和二五年八月二四日原告に対する昭和二四年度分の所得税ならびに事業税の支払に充てるため訴外加藤某より金四〇、〇〇〇円を借受けその利息として金四、〇〇〇円を支払つているが、かりに右金四、〇〇〇円を原告の所得中より支出するとともに同額の金員を事業資金として他より借受けてこれに利息を支払つていたならば、右利息は総収入金額を得るために必要な経費というべきであるから、前記金四、〇〇〇円の支払利息もまた必要経費として計上されて然るべきである。

(二)  被告

(答弁)

一、原告主張の請求原因事実のうち、原告がその主張の場所において雑貨品の販売業を営んでいたものであること、原告が被告に対し昭和二五年度分の所得金額を金二九〇、四五七円として確定申告したところ、被告が昭和二六年六月三〇日付で原告の所得金額を金四二六、一九五円とする更正決定をなしたこと、その後原告が同年七月一八日に被告に対し再調査の請求をしたが、同年九月二二日付で請求を棄却する決定があつたので、同年九月二八日さらに大阪国税局長に審査の請求をしたところ、同国税局長が翌二七年八月一一日右審査請求を理由なきものとしてこれを棄却する旨の審査決定をしたことはいずれも認めるがその余の事実は否認する。

二、すなわち、原告の昭和二五年度の所得金額は左記のとおり金四五六、七〇四円であつたのであるから、これを金四二六、一九五円として被告の右更正決定はなんら違法ではないというべきである。

(一)、総収入金額

昭和二五年一月一日より同年一二月三一日までの間に原告が収入すべき金額の合計額は金二、九〇八、三〇五円であり、その明細は次のとおりである。

(イ) 現金売分

右期間内に原告が現金取引によつて販売した商品の代金額は金二、六一一、六〇〇円である。

(ロ) 売掛分

原告の右年度における期首売掛残高は金四五、三四五円、期末売掛残高は金四四、六五〇円であり、かつ右年度中に回収された売掛金の額は金二三三、七五七円であつたのであるから、同年度中に生じた売掛金の額としては、期末売掛残高と売掛回収高の和より期首売掛残高を控除した額、金二三三、〇六二円である。

(ハ) 売上計上漏れ分

原告が右年度中に仕入れた仕入品の代金として支払つた合計金二、〇四六、一五二円のうち、山下屋外七軒の商店に対し、前後数回に亘つて支払つた合計金六三、六四三円はいずれも売上計上前の現金取引の売上金より支出されたものであるから、結局右同額の売上が現になされながらこれが売上金として計上されないままに終つたものといわねばならない。

以上のとおりであるから、原告の昭和二五年度における総収入金額は右(イ)(ロ)(ハ)各欄に記載の金額の和金二、九〇八、三〇五円となる。

(二)、必要経費

所得金額算出のために右総入金額より控除すべき原告の昭和二五年度の必要経費は次のとおりである。

(イ)仕入品の原価二、二九〇、七七九円(商品仕入高二、〇四六、一五二円に期首商品棚却高九九四、六二七円を加えたものより期末商品棚卸高七五〇、〇〇〇円を控除した額)、(ロ)使用人の給料七、〇〇〇円、(ハ)厚生費三、九一二円、(ニ)運賃四一、五〇〇円、(ホ)光熱費六、五七九円、(ヘ)修繕費四、七三〇円円、(ト)広告費三、二〇〇円、(チ)事務用品費一、六三六円、(リ)公租公課五五、八六五円、(ヌ)荷造包装費三、二八七円、(ル)通信交通費三、一八〇円、(ヲ)地代三、一五五円、(ワ)雑費一五、〇五〇円、(カ)支払利息五、九五〇円、(ヨ)減価償却費五、七七八円。以上合計二、四五一、六〇一円。

三、以上の次第であつて、原告の昭和二五年度の所得金額は右総収入金額より必要経費を控除した金四五六七〇四円であるから、被告のなした前記更正決定は適法であり、原告の本訴請求は理由がない。

(原告の主張に対する陳述)

一、必要経費について

必要経費に関する原告の主張のうち、(1)使用人の給料(2)厚生費(3)地代(4)雑費の各点についての原告の主張は自白の撤回であるから、これに対して異議を止める。

しかして、かりに右の自白が真実に反し錯誤に基くものであるとしても、左記の理由によつて原告の主張は理由がない。

(1) 使用人の給料

原告がその主張のように角谷、小野及び沢の三名に対して合計金一四、八〇〇円を支給したことは認めるけれども、右三名はいずれも当時腸結核に罹患していた原告の妻光子の看病のために雇傭したものであるから、これに対して支給した右金員は家事に関連する経費であつて必要経費ではない。

(2) 厚生費

原告がその主張の頃に妻光子の医療費として金七、三二〇円を支出したことは認めるけれども、右医療費のごときは総収入金額を得るために必要な経費とは言えないからこれを必要経費中に計上することはできないのであつて、かような医療費の支出に伴う租税負担の過重ないし不公平は、税法上いわゆる医療費控除の制度によつてこれを是正すべきものとされているのである。

(3) 地代

原告がその所有家屋の敷地に対する地代として昭和二五年中に金六、三一〇円を支払つたことは認める。しかしながら、原告は右借地上に居宅を所有しているばかりでなく、店舖及び倉庫部分についても、これをもつぱら営業のために使用していたものではなく一部分は原告方家族の居住の用に供していたのであるから、右金六、三一〇円はその全額が総収入金額を得るために必要なものとはいい難いのであつて、右借地のうちもつぱら営業の用に供しているものと認められる二分の一の部分に対する地代金三、一五五円のみが必要経費として計上さるべきものである。

(4) 雑費

原告が昭和二五年中に電話加入申込費として金一〇、〇〇〇円を、護国神社に対する寄付金として金五〇〇円をそれぞれ支出したことは認めるけれども、右電話加入申込費は資本的支出であり、また右寄付金は事業遂行上通常必要とされるようなものではないから、いずれも必要経費とはいえない。

なお、原告が金四、〇〇〇円をその主張のように利息として支払つたことは認める。しかし、原告に対する昭和二四年度分の所得税及び事業税は原告の所得中より支払われるべきものであるから、右支払いに充てるための借入金に対する利息のごときは必要経費に該当するものとは言えない。

第三、証拠<省略>

理由

一、原告が神戸市兵庫区下沢通一丁目三番地において雑貨品の販売業を営んでいたものであること、原告が被告に対し昭和二五年度分の所得金額を金二九〇、四五七円として確定申告したところ、被告が昭和二六年六月三〇日付で原告の所得金額を金四二六、一九五円とする更正決定をなしたこと、その後原告が同年七月一八日に被告に対し再調査の請求をしたが、同年九月二二日付で請求を棄却する決定があつたので、同年九月二八日さらに大阪国税局長に審査の請求をしたところ、同国税局長が翌二七年八月一一日右審査請求を理由なきものとしてこれを棄却する旨の審査決定をしたことはいずれも当事者間に争いがない。

二、しかして被告は、原告の昭和二五年度の所得金額は金四五六、七〇四円であるから右更正決定は適法であると主張し、原告は右所得金額は金二九〇、四五七円であるから右更正決定は違法である旨争うのでこの点について検討することとする。

(一)、総収入金額について

(イ)  現金売分

成立に争いのない乙第六号証(金銭出納簿)によると、原告の昭和二五年中における現金取引による商品の売上高は金二、六〇六、六〇〇円であることが認められる。もつとも、成立に争いのない甲第五号証によると、原告の損益勘定原簿の売上勘定欄には右現金取引による売上高は合計金二、五八四、三〇〇円である旨の記載があるけれども、成立に争いのない乙第二号証ならびに弁論の全趣旨を総合すると、昭和二五年中原告方においては日々の営業上の現金の出入は概ね右金銭出納簿に記載していた外、右現金の出入を入金及び出金各伝票に記載してこれを計理士の加古精男に送付していたこと、しかしてかようにして原告から送付されて来た入金及び出金各伝票に基き右加古精男において原告の昭和二五年度の損益勘定原簿ならびに貸借勘定原簿を作成したものであることがそれぞれ認められるのであつて、右各帳簿におけるかような作成経緯に徴して考えると、右損益勘定原簿における売上高の記載が原告の昭和二五年度に売上を忠実かつ正確に表示するものとは認められず、他に前記認定を覆すに足りる証拠はない。

(ロ)  売掛分

成立に争いのない乙第一号証によると、原告の昭和二五年度の期首における売掛残高は金四五、三四五円、期末における売掛残高は金四四、六九〇円であることがそれぞれ認められるとともに、右乙第一号証ならびに前記乙第二、第六号証によると、原告の昭和二五年中の売掛金の回収高は、少くとも、前記金銭出納簿ならびに貸借勘定原簿に重複して記載された分金二二〇、二八二円、貸借勘定原簿のみに記載された分金一三、四七五円(併わせて金二三三、七五七円)であることが認められるのである。してみると、昭和二五年中に生じた原告の売掛高としては、右期末残高に回収高を加えたものより期首残高を控除した金二三三、一〇二円であると認めるのが相当である。もつとも、前記甲第五号証、乙第一号証、同第六号証を総合すると、前記損益勘定原簿の売上勘定欄及び貸借勘定原簿の売掛金勘定欄に記載された右売掛高は、それぞれ合計金一八五、九二二円及び金一八三、五一七円であるにすぎないけれども、右各帳簿の作成された経緯が前記認定のとおりであつたことに鑑みれば、右各記載が原告の昭和二五年度の売掛高を忠実に表示するものとは到底認められず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

(ハ)  売上計上漏れ分

証人小原徹郎の証言同証言により真正に成立したものと認められる乙第四号証、第五号証の一ないし三、ならびに前記乙第六号証によると、原告が昭和二五年中にその仕入先に対して支払つた仕入代金のうち、山下屋に支払つた金六、六一五円、田中竹籠店に支払つた金三、〇〇〇円、北条和吉商店に支払つた金二、〇〇〇円、吉田商店に支払つた金二、〇〇〇円、久保平一商店に支払つた金一〇、六七七円、神戸生活用品株式会社に支払つた金七、三五一円、カドヤ商店に支払つた金一五、〇〇〇円、橋本商店に支払つた金一七、〇〇〇円(以上合計金六三、六四三円)は、いずれも右各仕入先より交付された仕切書にそれぞれの入金の記載がなされているに拘らず、前記金銭出納簿にはこれに見合う出金の記載がなされていないこと、すなわち原告としては現に右金六三、六三四円を右各仕入先に支払つておきながら帳簿上これを出金として記載していないことが認められるのである。しかしながら、かような帳簿上の出金の記載漏れが、売上として計上される以前の現金取引による売上金の中から右仕入代金が支出されたために生じたものであるかどうかは証拠上これを明らかにすることはできないのであつて、証人小原徹郎の証言中この点に関する部分はにわかに措信し難い。してみると、右記帳漏れの仕入代金が売上計上前の売上金から支払われたものであるかどうか、かりに支払われたものとしても右金六三、六四三円のうち何程の金額が右売上金から支払われたものであるかは結局明らかではないので、前記(イ)記載の売上金の外に右出金の記載漏れと同類の売上の計上漏れが存在するとの被告の主張はこれを採用することができないといわざるを得ない。

(二)、必要経費について、

原告の昭和二五年中の必要経費のうち、(イ)仕入品の原価が二、二九〇、七七九円(商品仕入高二、〇四六、一五二円に期首商品棚卸高九九四、六二七円を加えたものより期末商品棚卸高七五〇、〇〇〇円を控除した額)、(ニ)運賃が四一、五〇〇円、(ホ)光熱費が六、五七九円、(ヘ)修繕費が四、七三〇円、(ト)広告費が三、二〇〇円、(チ)事務用品費が一、六三六円、(リ)公租公課が五五、八六五円、(ヌ)荷造包装費が三、二八七円、(ル)通信交通費が三、一八〇円であることは当事者間に争いがなく、(ヨ)減価償却費が五、七七八円であることは被告の自認するところである。

ところで被告は、必要経費に関する原告の主張のうち、(1)使用人の給料、(2)厚生費、(3)地代、(4)雑費の各点についての原告の主張は自白の撤回であるから許されない旨の異議を述べるので案ずるに、原告が昭和二九年一月二二日の準備手続期日に、(1)原告が角谷、小野及び沢の三名の者に支払つた合計金一四、八〇〇円は家事上の経費であつて必要経費ではない、(2)原告が昭和二五年一〇月三〇日支払つた金七、三二〇円は、原告の妻の医療費の一部であるから家事上の経費であつて必要経費ではない、(3)原告が支払つた地代金六、三一〇円のうち半額は、借地のうち家事使用部分に対する地代であるから右は家事上の経費であつて必要経費ではない、(4)原告が昭和二五年二月一五日に支払つた電話加入申込費金一〇、〇〇〇円、同年五月七日に支払つた護国神社に対する寄付金五〇〇円は、いずれも事業のために必要な損失ではないから必要経費とはいえない、との被告の主張についてこれを認める旨の陳述をしながら、その後これを撤回して右はいずれも必要経費であるとの陳述をするに至つたことは記録上明らかなところであるけれども、原告のなした支出が必要経費に該当するか否かは事実問題ではなく法律問題であつて、この点についての原告の自白はなんら裁判所を拘束するものではなく、また原告としてはいつまでもこれを撤回できると解すべきであるから、被告の右異議は理由がないといわねばならない。

よつて以下本件の争点である使用人の給料、厚生費、地代、雑費及び支払利息の各点につきこれが必要経費に当るかどうかを順次判断することとする。

(1)  使用人の給料

原告が昭和二五年中に必要経費たる使用人の給料として金七、〇〇〇円を支出した外、訴外角谷某、小野某及び沢某の三名の使用人に対し合計金一四、八〇〇円を支給したことは当事者間に争いがない。しかして原告本人尋問の結果によると、右三名の者(いずれも女性)は、当時原告の妻が腸結核に罹患して療養中であつたようなところから店の手伝をも兼ねて家事の手伝をしてもらうとのことで昭和二五年中に一ケ月ないし三ケ月に亘つて雇傭されたものであり、食事の仕度等原告方の家事上の労務に従事する外、原告方店舖の顧客との応待にも従事していたものであることが認められるのであつて、したがつて同人らに支給された右金一四、八〇〇〇円のうち一部は原告の昭和二五年度の収入を得るについて必要な経費であると同時に他の一部は家事に関連する経費であるといわねばならない。しかしながら、右三名のものが前記認定のとおりの労務に従事すべきものとして雇傭されたようなところから右金員のうちいくばくの額がもつぱら右収入を得るについて必要であつたかは全く明らかでないので、結局右金員の支出は全体として必要経費に当らない経費の支出といわざるを得ないのである。

(2)  厚生費

原告が昭和二五年中に必要経費たる厚生費金三、九一二円を支出した外、昭和二五年一〇月三〇日原告の妻光子の医療費として金七、三二〇円を支出したことは当事者間に争いがない。しかしながら、右医療費のごときは原告の前記総収入金額を得るために必要な経費と言い得ないことは明らかであるから、これをもつて総収入金額から控除すべき必要経費と認めることはできない。

(3)  地代

原告が神戸市兵庫区下沢通一丁目三番地所在の原告所有家屋の敷地の地代として昭和二五年中に金六、三一〇円を支払つたことは当事者間に争いがない。しかして原告本人尋問の結果によると、右敷地の面積は三四坪であつて、昭和二五年度においては原告は同地上に建坪約六坪のバラツクを建築所有してこれを店舖として使用するとともに、右バラツクの裏側にトタン葺の四畳半の間一間を接続して設置し、これを原告方家族の居住の用に供していたこと、右敷地のうちその余の部分(建物の裏側)は空地であつたことがそれぞれ認められるのである。してみると、右敷地面積のうち少くとも二分の一はもつぱら原告方家族の居住の用に供していたものと認むべきであつて、したがつて前記地代金六、三一〇円のうち少くともその半額金三、一五五円は家事上の経費と目すべきであり、残余の金三、一五五円のみが必要経費としての地代と認定するのが相当である。

(4)  雑費

原告が昭和二五年中に必要経費たる雑費金一五、〇五〇円を支出した外、電話加入申込費として金一〇、〇〇〇円、護国神社に対する寄付金として金五〇〇円、合計一〇、五〇〇円を支出したことは当事者間に争いがない。しかして原告は右電話加入申込費は必要経費であると主張し、被告は資本的支出であるから必要経費に算入すべきでないと主張するので考えるに、右電話加入申込費は原告が新たに電話の設置を受けるために支出した費用であり、したがつて所得税法施行規則第一一条にいわゆる資本的支出に当るものでないことは明らかであるけれども、右の費用が原告において新たに取得した資産である電話加入権の対価たるの性質を有するものである点から考えると、かような費用の支出は原告の営業の損益計算にはなんらの係わりもないというべきであり、したがつてまた右損益計算の立場のみから決定せられる事業所得算出のための必要経費(損金)として計上せらるべきものでもないといわざるを得ない。次に寄付金の点について案ずるに、一般に寄付金のごときは寄付者の営業状態、寄付の理由、相手方、金額等諸般の事情から営業の維持遂行上必要止むを得ないものと社会通念上認められるものでない限り、営業上の必要経費とはいえないものと解すべきところ、前記金五〇〇円の寄付金は、建坪約六坪の店舖を構えて雑貨類の販売業を営んでいた原告が護国神社に対する寄付金として支出したものであるというに止まり、それが営業の維持遂行上必要止むを得ないものであることを首肯せしめるに足りる事情については他になんらの立証もないので、結局右の寄付金五〇〇円をもつて必要経費であるとすることはできない。

(5)  支払利息

原告が昭和二五年中に必要経費たる負債の利子として金五、九五〇円を支出した外、昭和二五年八月二四日原告に対する昭和二四年度分の所得税ならびに事業税の支払に充てるため訴外加藤某より金四〇、〇〇〇円を借受けその利息として金四、〇〇〇円を支払つたことは当事者間に争いがない。しかしながら、右の負債の利子金四、〇〇〇円が前記総収入金額を得るについて必要なものと言い得ないことは明らかであるから、これをもつて必要経費と認めることはできない。

三、以上の次第であるから、原告の昭和二五年度の所得金額は、前記第二項の(一)において認定した金額の合計額(総収入金額)金二、八三九、七〇二円より同項の(二)に記載の金額の合計額(必要経費)金二、四五一、六〇一円を控除した額金三八八、一〇一円であつて、これを金四二六、一九五円とした被告の前記更正決定のうち右金額を超える部分は違法であるからこれを取消すこととし、原告その余の請求を棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九二条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 村上喜夫 清水嘉明 藤原弘道)

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